信毎・こどもの日の社説

遠くにいる友人におくります。

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こどもの日 いまだから伝えたい
5月5日(木)

 きょうは、こどもの日。みなさんの幸せについて考える大切な日です。

 東北地方で強い地震があり、大きな津波が町を襲いました。福島県の原子力発電所(原発)から放射能が漏れ出し、食べ物や空気の汚染が心配されています。

 こんな大変なときに、子どもたちにどんな言葉を贈ることができるのか、考えました。何度考えても、「ごめんなさい」という言葉が胸に浮かんできます。

 被災地の子どもたちにだけではありません。不安を抱えながら暮らしているみんなに、大人の一人として、謝らなければならないと思うのです。

   <大震災の前と後と>

 大震災で、多くの人たちが亡くなりました。家や学校、仕事場を失い、故郷を離れなければならなくなった人たちもたくさんいます。12万もの人たちが、いまも避難所で生活しています。

 津波の被害に遭った宮城県気仙沼市の15歳の中学生が、卒業式で語った言葉が胸にこたえました。

 「自然の猛威の前には、人間の力はあまりに無力で、私たちから大切なものを容赦なく奪っていきました。辛くて悔しくてたまりません。しかし、苦境にあっても、天を恨まず、運命に耐え、助け合って生きていくことが、これからの私たちの使命です」

 少年が涙をこらえながら示した強い意思に、頭が下がります。少年の言うように、東北に元気を取り戻すため、みんなで力を合わせていくときだと思います。

 原発の事故は「自然の猛威」が原因ではありませんでした。政治家や電力会社の人たち、学者の多くが「日本の原発は安全だ。放射能漏れは起こらない」と言い続けてきたのです。

 彼らだけの責任にはできません。大人たちは、便利な生活のために電気を使い続けてきました。原発からたくさんの電力が送られているのを知りながら、本当に安全なのか、事故の心配はないのかという真剣な問いかけをしてこなかったのです。

 みなさんに謝りたいのは、このことなのです。

 大震災の前から、私たちの社会にはさまざまな問題がありました。子どもたちが虐待に遭ったり、亡くなったことさえ気づかれない高齢者がいたり、自殺する人が後を絶たなかったり…。

 大人は、自分たちの暮らしを守ることに懸命で、人と人とが助け合って生きることの大切さを忘れがちでした。いまの社会の何かがおかしいと思いながら、変えることができずにきたのです。原発の問題と根っこは同じです。

   <変わり始めた社会>

 大震災の後、そんな社会が少しずつ変わり始めた気がします。

 被災地では、大人も子どもも力を出し合い、困難に立ち向かっています。全国各地からボランティアが被災地に集まり、支援活動を始めています。お金や物資を送る人たちも大勢います。

 支え合って生きていくことの大切さに、多くの人たちが再び気づき始めたように感じます。

 原発についても、見直そうという声が高まってきました。先日、各地で行われた選挙でも、太陽光や風力、水力などによる発電に変えるべきだと訴える立候補者が大勢いました。

 変えたい、という願いをバネに、安全で暮らしやすい社会を築いていかなければなりません。

 けれど、すぐには変わらない。社会の仕組みを変える挑戦はきっと、みなさんが大人になり、社会で働くようになってからも続いていくと思います。

 詩人の牟礼慶子さんの作品に「見えない季節」があります。一部を紹介します。〈できるなら/日々のくらさを 土の中のくらさに/似せてはいけないでしょうか/(中略)/ともあれ くらい土の中では/やがて来る華麗な祝祭のために/数かぎりないものたちが生きているのです〉

 真っ暗な土の中には、地表に伸びようとするたくさんの命が宿っている。牟礼さんは、そうした命を「未来」と呼ぶことができるとつづっています。

 大震災と原発事故が重なり、日本の将来は暗いなと感じている人がいるかもしれません。そんな社会にある希望は、これから未来へと歩んでいく子どもたちをおいてほかにありません。

 不安げな表情を浮かべる大人たちの心配は、自分たちのことよりも、子どもたちの将来に向けられています。みなさんが希望を持って生きていくことができるよう、社会を少しでもよくしたい、と大人は願っています。

   <もっと声を聞かせて>

 だから、心配なことや不安なことがあったら、もっと声に出してもらいたいのです。友だちとも話し合ってみてほしい。大人にしてもらいたいことがあれば、ぜひ聞かせてください。みなさんの声をしっかり受け止めて、これからの社会をつくっていかなければならない。そう考えています。


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                       5月5日 信濃毎日新聞・社説より

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by sanluishayashi | 2011-05-07 15:29 | 日記